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僕が産まれたのは今からちょうど20年前。都会か田舎かで言えば比較的都会寄り、都心というわけではないけれど生活には困らない程度の町、一時間前後電車に乗っていれば東京の真ん中にも行ける、そんな場所で産まれた。そのおおよそ2年前、同じ場所で姉が産まれた。産まれたというか、僕は当然見たわけではないので産まれたらしいというべきか、それとも事実産まれている記録があるので言い切るべきか、とにかく、やや都会な町で、22年前に姉が産まれ、20年前に僕が産まれた。2歳差の姉弟。2歳差の女と男。姉の成長期。僕の成長期。姉の思春期。僕の思春期。少女から少しずつ大人の女になっていく姉の姿を、僕は特等席でずっと見てきた。それは姉も同じだった。少年から少しずつ大人の男になっていく僕の姿を、姉は特等席で見ていたはずだ。ただの姉弟から、段々と異性になっていくお互いを、でも姉弟という血の繋がり故のもどかしい想いを、意識しないで過ごすなんて、僕も姉もできなかった。時は流れて現在。僕は1人、東京に出てきた。別に姉から距離を取りたかったわけではない。取りたいか取りたくないかで言えば取りたくないくらいだ。だが、それ以上に諸々の事情というものがある。進学、就職などの人生のイベントには初の1人暮らしというのは付きものだろう。今回の僕の引っ越しもそういうものだ。別に不思議なことではないし、友人も親戚もご近所さんも、もちろん家族も、姉を含めて応援してくれている。応援してくれている、というのは言葉だけではない。実際に姉は僕の新居まで足を運んでお祝いをしに来た。20歳になったばかりの僕のことを思ってわざわざ初めてのお酒まで用意して、だ。まぁ正確に言えば、姉がというよりは、姉の友人の近所のお姉さんが調子に乗って色々買って持ってきたというのが正しいのだが、そんなこんなで所謂宅飲みというやつがスタートしたのだった。なんとなく話には聞いていたのだが、その近所のお姉さんは酒癖が悪い。そしてゲームがめちゃくちゃ弱い。そして弱いのに毎回罰ゲームをする。ただしボードゲームだけはべらぼうに強い。話に聞いていた通り、彼女はボードゲームで僕と姉を圧倒して罰ゲームの手錠で2人を繋いだ。そしてその後のゲームでは全て負けて一発屋芸人のような恰好になりながらそそくさと帰っていった。僕と姉を繋いだ手錠を外さずに、1人で千鳥足になりながら帰っていった。そういえばの話だが、彼女についての噂はもう1つ聞いたことがあった。それは、彼女を含む複数人で宅飲みをした後は何故か必ずカップルが誕生する、というものだった。そんなことを頭の片隅でうっすらと思い浮かべながら、だがしかしカップルになる以前に僕と姉は姉弟であるということを強く心に刻みながら、それでもどこか淡い期待をしながら、願わくばしばらく見つからないでと欲しいと思いながら、鍵を探すのだ。結果として鍵はすぐそこにあった。しかし、運命のいたずらなのか、神がそう仕向けたのか、それとも例の彼女が謎のスピリチュアルな力を働かせたのか、すぐそこにあるはずの鍵が見つかったのは、既にことが済んだ後であったことを先にこの場で報告しておこうと思う。着替えも、トイレも、お風呂も、何一つ自由にできないまま、しかし人としての生活を送るために姉と協力してこなしていった中で、僕と姉は産まれてから初めて本当の意味で交わることとなる。最後に一緒にお風呂に入ったのは10年前、一緒の部屋で着替えをしていたのもおおよそ10年前、トイレの世話などはされたことがないはずだ。その10年前に見た姉の身体が、10年前から見ることが叶わなかった姉の身体が、10年前に封印しなければと思ったこの想いが、10年前になかったことにしたこの気持ちが、10年間気づかないふりをしていたこの本音が、お風呂の生ぬるいお湯に溶け出すのは、今夜この時なのである。